「わたしはモンゴル人」 唄:中里 豊子

誕生までの道のり

モンゴル文化圏では、詩人チミドを知っている人は、それほど多くないが、しかし彼の「私はモンゴル人」という詩を知らない人はいないでしょう。この詩は作家の司馬遼太郎、モンゴル学の教授田中克彦をはじめ、多くの文筆家にも好かれています。というのも、この詩はモンゴル人の郷愁を叙情的に歌ったのだが、それが決してモンゴル人に止まらず、生き物として生まれた人間を誇りに思い、かつてあったあの美しい素朴な自然と生の根源への憧れを表現したところに多くの人に感動を与え、愛される詩となったのです。

この詩には人間という生き物が生を営んできたという、生命の始源のノスタルジア、自然に対する憧憬、讃美、抱擁と甘える情緒が込められているのです。一方、作曲家、歌手、演奏家、演出家というように多才な芸術家であるテンゲルは、この詩に魅せられて、彼の感性の赴くまま、多くの人々に愛されて歌われるような美しい曲を完成させたのです。

テンゲル氏は、1980年代から人気歌手として脚光を浴び、以来モンゴル文化圏だけではなく、中国、台湾、香港などの国、地域にも好かれるような芸術家にもなりました。彼の胸にはずんだ「私はモンゴル人」は、草原で生きる人々にとって、歌うべくして歌ったメロディーであり、この曲を聞くたびに、心が震えざるを得ません。

詩と歌の出会いは、自然という神様から授かった一種の出来事だと言ってもよいでしょう。「私はモンゴル人」という歌は、われわれの様々な思いと交じって伝わってきた時、恐らくその瞬間まさに国、民族、人種を超えて、心の奥の情緒に響きわたり、われわれがすでに忘れかけた始源の、あの天と地の交える「床」-純粋かつ聖なる自然への思い出が甦えられ、遠背の人間と自然の生の始まりへ連れ戻されるのでしょう。

詩人:宝音希賀格(ボヤンヒシグ)

アリガリの煙立ち上る 牧民の家に生まれた私
故郷の草原を 揺りかごだと思う
この人こそモンゴル人
故郷の愛する人よ
生れ落ちたこの大地を 自分の身体のように愛しく思い
産湯にした清らかな川を 母の乳のように懐かしく思う
(訳詩:中里 豊子)

騰格尓(テンゲル)氏より 中里豊子へのメッセージ

《日本語訳》
「わたしはモンゴル人」という私の歌は今までモンゴル人の同胞に非常に好かれてきました。 しかし、中里豊子女史によって歌われたのが外国では初めてです。この度、中里女史の歌ったのを聞いて率直に言って作曲者である私は心の奥から沸いてくる感動と敬服の気持ちを抑えることができません。中里女史を通じて、この歌がこれからより多くの日本と外国の友達に好かれ、愛されることを祈念しております。作曲者:騰格尓(テンゲル)
1997.12.21 北京にて

騰格尓(テンゲル)氏プロフィール

1960年
内蒙古のオトグに生まれる。芸術学院、音楽学院を経て中央歌劇団に配属される。
1990年
「ウランバートル’90」の世界流行音楽大賞最高賞を受賞
1996年
「モントリオール国際映画祭」で最優秀音楽賞に入賞
彼の音楽創造は、モンゴル民謡の特徴に、現代のポピュラー音楽を融合させ、民族風格と現代感を感じさせる。生まれつきの豊富な声量と歌唱力は世界級のレベルで、多くの人に強い感銘を与えている。
俳優でもあり、1998年のNHKにおいてテンゲルの主演する映画が放映された。